「そんな日々を過ごしてたある日、誰にでも気さくで私とも少し話すおばあちゃんがいたんだ。そのおばあちゃんと少し話す時間が楽しかった。そのおばあちゃんね、「もうすぐ退院するんだ」って喜んでた。でも、「あなたに会えなくなるのは寂しい」とも言ってくれたの」

咲良の目から涙がこぼれ落ちる。次の言葉を察して湊の胸がズキンと痛んだ。

「その人は、家に帰れなかった。急に脳出血を起こしてそのまま亡くなった。その人が亡くなった後、部屋を片付けていたら手紙が出てきたの。私宛ての手紙。……ありがとうって書いてあった。その時、後悔したの。もっと向き合えばよかったって……」

あの人がいなかったら、今の私はいない。そう言い咲良は俯く。湊は「そんなことがあったんですね」と呟いた。

「だから、咲良さんはあんなにもひとりひとりと向き合うんですね。咲良さんのそういうところ、本当に好きです」

ポロリと口から出た言葉に湊はハッとして口を押さえる。しかし、その言葉は咲良の耳にしっかり届いていた。互いの顔が赤くなる。

「ありがとう」

そう言った咲良の表情に、湊はまた胸を高鳴らせた。