弾き終わった祥太君に拍手をしてお礼を言ったら、


『…結菜ちゃん、もしかして泣いてる?』


って、私の顔を覗くような素振りをした。


『…そ、そりゃ、泣くでしょ。普通』


思わず、顔をそらす私。


そんなこと、こんな近くで言われたら恥ずかしいよ。


『結菜ちゃんって…ほんとに可愛いね』


え…


祥太君はそう言うと、私に近づいて、そして…


頭をなでてから、優しく抱きしめた。


私を…


ギューって。


その行動があまりに突然過ぎたから、全く体が動かなくなって…言葉も出なくなった。


どうして…?ただ、そんな思いだけが頭の中を巡っていた。


祥太君の腕の強さを感じ、何が何だかわけがわからないのに、また目頭が熱くなった。


次の瞬間、祥太君の携帯が鳴り、私は我に返って祥太君から離れた。


『で、電話かな?』


『あっ、うん。そうみたい…ごめん、今日はありがとう、じゃあ』


それだけ言って、祥太君は振り向かずにそのまま部屋を出ていった。


祥太君も、颯君も、いったいどうしちゃったの?


ピアノの余韻と共に、私の体に残る祥太君の感触がすごく切なくて…


私の感情は、今、ごちゃごちゃに散らかってしまった。