友達の恋人 ~ 一夜からはじまる愛の物語 ~

「香澄」
私の口から出たその名前に渉の手がピクリと動いた。

その名前を渉の前では出したらいけないような気がしていた。

それは大きな悲しみを思い出させてしまうと思っていたから。

同時に、私たちにとって、香澄のことは悲しすぎてつらすぎて、触れたくない分厚い扉にカギをかけるように、開けてはならないような気がしていた。

扉を開けたところで香澄はかえってこない。
ただただ悲しみを思い出し、つらさしか得られないのなら、その扉を開けたくないとすら思った。


でも、それじゃあ、香澄の想いはどこに行ってしまうの?
たとえ死んでしまっても、香澄の願いや想いは残っているはずだ。