「疲れただろ。帰ろうか。」
助手席の私にブランケットをかけながら渉が言う。
「うん。」
「ちょっと寝たほうがいい。」
「ありがとう」
「いいえ。」
渉が車のエンジンをかけて、ハンドルを握る。
「渉」
「ん?」
名前を呼ばれて私の方を見る渉。

「ありがとうね。本当に。」
渉が私が休めるようにと、椅子を少し倒してくれていて、私の瞳の端から涙が流れる。
「いいえ。よかったな。」
「うん」

渉が居なかったら私はあのまま両親とわかりあえないままだった。
そして、ずっとわかりあえないまま、姉の気持ちも、両親の想いも知らないまま、背を向けてしまっていた。