クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~

 光琉が話をしている相手が、もし彼だったら。
 そう考えるとやはり胸が苦しくなる。

 どうしようと悩んで、紫織は、大きく息を吸った。

 たとえ予想通りだとしても、ここでUターンをしては負けだ。『SSg』にいるためには、必ず乗り越えなければならない試練に違いない。

 いつか辞めるにしても、いまのままでは納得いなかいし、後味が悪すぎる。


 負けるもんか!
 そう思いながら紫織は唇を噛んだ。

 唇をキュッと結び、胸を張ってスタスタと紫織は歩き出した。

 角を曲がると。

 予想通り、そこにいたのは光琉と鏡原社長。彼だった。

 決意したばかりなのに、早くも心が挫けそうになり、手を握りしめた。

 社長と秘書。
 彼らは付き合っているという噂がある。

 そんなラノベのような話。もちろん本当かどうかなんてわからないけれど、彼女の方さえうんと言えば、そういう仲になるのは簡単だろうと、紫織は思っている。

 何しろ平手打ちの女の子だけでなく、彼には他にも女性の影があるというのだ。
 今回の事件を機に、女の子達が囁やき始めた。
『実は私、見たんですよ』
 夜の街で彼が女性とふたりで歩いているのを見たという話も、しっかりと紫織の耳に届いている。そんな話は聞きたくもないのに。

 なんでもない、なんでもない、無視、無視と呪文のように唱えながら、紫織はそっと頭を下げて彼らの隣を通り過ぎようとした。

 なのに。

「あ、紫織さぁん」
 光琉が声を掛けてくる。

 さすがに無視するわけにもいかず立ち止まった。

「この前は、紫織さんもビックリしましたよねぇ」

「あ、あはは。ええ、まぁ」

 あの状態で、驚かない人がいたら、そのほうが驚きよ。と思いながら、これ見よがしに苦笑する。

「社長ったら、彼女の名前すら憶えていないんですって」

「それは酷い」