あの事件は、まるでドラマのシーンのようだった。
あのとき紫織は、おつかいで郵便局に出かけた帰りだった。
ふと宗一郎がいたこと気づき、彼と顔を合わせないように気をつけながら、足早に通り過ぎようとしたところだった。
彼の隣には秘書の光琉がいて、彼の正面には日傘を差した女の子がいることを、特に不思議がることもなく、通りかかった知り合いと立ち話をしているとか、その程度にしか思わなかったのである。
まさにすれ違おうとした、その瞬間だった。
女の子が彼の頬を叩いた。
ギョッとして目を剥いた瞬間、彼と目が合った時の、驚きと気まずさをどう表現したらいいものやら。
思わず見た女の子は、とても綺麗な子だった。
瞳に涙を溢れさせながら唇を噛んだ彼女は、光琉に肩を抱かれるようにしてタクシーに乗った。
誰がどう見ても、あれは痴情のもつれ。
百歩譲っても痴話げんか。
幻滅したとしか言いようがない。



