デスクの隅に、しずく形をしたガラスのオブジェがある。
紫織が私もテンポドロップを持っていると思った時、デスクの脇に立つ男性が紫織たちに微笑みかけた。
「どうぞ、そちらに」
促されるまま、室井の後についてスチール製の椅子に腰を下ろすと、向かいの席に腰を下ろした男性は、ニッコリと微笑んで名刺を差し出しおた。
「副社長の荻野です。藤村さんとは初めてですね」
どう見ても自分と同じくらいの歳にしか見えない若き副社長の服装は、ジャケットこそ着てはいるが、その中は襟のないカットソー。ここに昇ってくるまで目にした社員たちのように、彼もやはりビジネススーツではない。
「よろしくお願いします」
紫織は慌てて頭をさげた。
身をこわばらせながらキュッと唇を噛み、気を落ち着かせようと静かに息を吸いこんだ紫織の耳に、カツカツと、ゆっくりとした足音が響く。
そして、テーブルを挟んだ正面に足音の主が座った。



