昨夜宗一郎に言われるまで、退職届を出したことをすっかり忘れていた。
『ついに俺の手元まで来たぞ紫織の退職届』
『あっ!』
『人事部には俺から言っておくよ。退職するにしても年明けでいいよな?』
両家への挨拶も無事済んで、来年の春には京都の小さなお寺で身内だけの結婚式をすることになった。
仕事をどうするかは悩むところだったが、入社してまだ二か月しか経っていないのに、いきなり辞めるのも体裁が悪いしと年末付で辞めることにしようということになった。
でもそれはまだふたりだけの秘密。
あと数か月は秘密の恋人ということになる。
「そうだろうとは思ったよ。京都から戻ってきた時、やけにスッキリした顔をしていたしな。じゃ、人事部には言っておくよ」
室井がクスッと笑う。
「あ、はい。すみません、」
「まあ良かった。あんなにピーピー泣いてから一時はどうなることかと思ったぞ」
ほんとうにと、泣いていた紫織の真似をして、室井は楽しそうに笑った。
「えへへ、すみません」



