「ええ?! カラオケ? いたの? どこに?」
「廊下から覗いてた」

「信じられないっ! いるってわかってたら歌わなかったのにぃ」
 重ね重ね、これではまるで、彼の手のひらで転がされているようではないか。恥ずかしいやら頭にくるやらで、紫織は真っ赤になった。

 宗一郎はといえば散々笑い、笑い疲れたようにため息をついて、ワインを飲むと、今度はジッと紫織を見つめる。

「紫織」
「なによ」

 彼は右手を伸ばし、テーブルの上にあった紫織の右手を包み込んだ。

「あの時、思ったよ。この場にいる男全員、殴り倒してやろうかってね」
「――え?」
「創立記念パーティで紫織に絡んだあの男、あの男の会社とは、取引を停止した」
 ――ええ? なんですって?

「ごめんな、あの場で助けてあげなくて。すぐにウェイターに助けるように声をかけたんだけど、お前はもういなかった。探していたら、今度は光琉が絡まれていて、酷いパーティだった」

 そうだったのねと思いながら、紫織はキュッと唇を噛んで俯く。

 あの時はショックだった。
 光琉のことはしっかり助けたのに、私のことは見てみぬふりをしたとばかり思っていた。

「綺麗だった。あんまり綺麗だから腹が立ったよ。見てんじゃねよってあの会場から男全員追い出したかった」

 ――宗一郎……。
 彼の手に包まれた右手から全身に広がる彼の熱。ジンジンと伝わる熱い想いにのぼせてしまいそう。

 なのに。手を離してくれないばかりか、拳を解いて絡めてくる彼の指に、ドキドキと胸の鼓動は激しくなるばかりだ。

 いたたまれなさにますます俯くと、指の力はますます強くなった。

「なぁ紫織、紫織はどうなんだ?」