クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~

「じゃあ、行くか」

「あ、はい」

 そう答えながらも、帰るということだと思った。
 だって、ふたりで食事だなんてありえないではないか。

 なのに、彼は「この時間だから、酒飲みながらいいか?」などと言う。

「え? 本当に行くの?」
「嫌か?」

「ううん。嫌じゃないけど」

 もう十時近い。それなのに彼はまだ何も食べていない。

 手伝ってもらったのに、ここで断わるなんて、どれだけ鬼?
 心の中の自分に叱られた。

「本当にいいの?」

 ――私はいいけど、あなたは誤解されたら困る人とかいるんじゃないの?
 そう言葉に含んだはずなのに、彼は真顔で首を傾げる。
「なにが?」

 ――え? なにがって、え?
 あの“しおり”っていう女の子だって、あの後どうなったのよ。

 そう思うのに、宗一郎の目を見るとなんだか言えない。

「えーっと、じゃあ行きましょう」
 ――とか言っちゃったけど。
 ほ、本当に? いいのかなぁ。

 促されるまま一緒に会社を出て、入ったのは会社の近くのバー。
 カウンターの他には数席しかないようなその店で、隣同士で座ると、もうそれだけでどうしようもなくドキドキと顔が火照る。

 ふわりと彼から香ったのは整髪剤なのだろうか。
 爽やかないい香りだった。

「紫織は何か食べたいものは?」

「えっと。じゃあ、サラダをどれか」

「白ワインを頼むけど、ちょっと飲んでみる? 明日休みだし」

「うん。そうね、ちょっと飲もうかな」