クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~

 光琉にとって彼は恩人だ。

 夜の世界から昼間の世界へと自分を救ってくれた大切な人である。
 背中を押してくれたのは憧れの銀座のママだが、実際に手を差し伸べてくれたのは彼だ。その恩を忘れたことは一度もない。

 彼を大切に思う気持ちは、男女間の恋愛とは違う。尊敬と信頼の情だ。

 とにかく、彼の力になりたかった。
 名刺入れの謎はまだわからないが、とにかく自分に出来ることはなんでもしてあげたい。力になりたいのだ。

 でなければいつか、彼は倒れてしまう。
 二十四時間仕事に費やし、まるで何かに憑りつかれているかのように、神経をすり減らし暇もなく働いている。

 なんとかしなければ、
 せめて心の安らぎを手に入れてもらわなければ。

 ――社長の恋が叶いますように。
 そう願いながら、光琉は足音を殺してそっと廊下を進み、エレベーターに乗った。

 残る問題は彼女だ。
 ――とにかく彼女に聞いてみよう。

 そう思いながら、ひざ掛けを持った光琉は、まだ紫織がいるかもしれない喫茶コーナーに向かった。


 紫織はいた。
 なにを思っているのか、彼女は外を見上げている。

「紫織さん? なにか見えますか?」
 振り返った紫織は、にっこりと微笑む。

 その笑みをみて、光琉は綺麗だなぁと思った。

 こんなふうに奥ゆかしい美人がモテないはずはない。
 ――社長が彼女を好きだとして彼女のほうはどうなのだろう?

「星がね、ぜんぜん見えないんだなぁって思って」

「ああ、そうですねぇ。でも私は、夜空なんて花火の時しか見上げたことないかも」

「え?そうなの?」

「はい。私、超がつくほど現実的なんですよ。夜空を見上げるとなんだか切なくなっちゃうような気がするんです。だから、切なくならないように見ない。みたいな?」

 光琉はクスッと笑う。
「私、可愛くないんです」

「やだ、光琉ちゃんが可愛くなかったら、ほとんどの女の子が可愛くなくなっちゃう」

 ありがとうございますと、光琉は笑った。
「あ、そうだ。紫織さん、お願いがあるんですけど、社長にコーヒーを届けてもらえないですか? いま、社長室にいるんですよぉ」