――お腹が冷えちゃった。
ひざ掛けを取りに自分の席に行った光琉は、社長室の扉が少し開いていて明かりが漏れていることに気づいた。
「あれ?」
鏡原社長は今日の飲み会は欠席すると言っていた。
でも、欠席の理由は仕事ではなく、用事があると言っていたのである。
その社長が社内にいるとは思っていなかったので、不思議に思った光琉は隙間からそっと覗いた。
鏡原社長は何かを手にして佇んでいる。
声を掛けようかと迷ったが、なんとなく憚れた。
社長が手にしていたもの。
――あ。あれは、あの名刺入れ?
彼は時々あんな風にして名刺入れを見つめている。
光琉はそのことに気づいていた。
革と織物で出来た名刺入れ。
彼はその名刺入れを使うわけではなく、大切そうに机の中にしまっている。
光琉が入社して一年が経ったころ、偶然見かけたことがあった。
彼はいまのように、ぼんやりと名刺入れを見つめていた。
その横顔はなんとも哀しそうで、辛そうで、見ている光琉の心をも悲哀の沼に引きずるような、そんな雰囲気を漂わせていた。
いつだって力強く精力的に仕事をこなしていく彼からは想像もできないその姿に、光琉の目は釘付けになった。
その時以来、ずっと気になっている。
――名刺入れに隠された、社長の想い。
誰か大切な人の形見? もしくは、強い想い出の証し。
詮索するのは好きではないので、名刺入れのことについて聞いたことはない。
でも、ふと気づいた。
最近になって、彼が名刺入れを見る回数は、あきらかに増えている。
ここ最近で変わったことといえばひとつしかない。
季節外れの新入社員。
彼女がここ『SSg』にやってきた。
ひざ掛けを取りに自分の席に行った光琉は、社長室の扉が少し開いていて明かりが漏れていることに気づいた。
「あれ?」
鏡原社長は今日の飲み会は欠席すると言っていた。
でも、欠席の理由は仕事ではなく、用事があると言っていたのである。
その社長が社内にいるとは思っていなかったので、不思議に思った光琉は隙間からそっと覗いた。
鏡原社長は何かを手にして佇んでいる。
声を掛けようかと迷ったが、なんとなく憚れた。
社長が手にしていたもの。
――あ。あれは、あの名刺入れ?
彼は時々あんな風にして名刺入れを見つめている。
光琉はそのことに気づいていた。
革と織物で出来た名刺入れ。
彼はその名刺入れを使うわけではなく、大切そうに机の中にしまっている。
光琉が入社して一年が経ったころ、偶然見かけたことがあった。
彼はいまのように、ぼんやりと名刺入れを見つめていた。
その横顔はなんとも哀しそうで、辛そうで、見ている光琉の心をも悲哀の沼に引きずるような、そんな雰囲気を漂わせていた。
いつだって力強く精力的に仕事をこなしていく彼からは想像もできないその姿に、光琉の目は釘付けになった。
その時以来、ずっと気になっている。
――名刺入れに隠された、社長の想い。
誰か大切な人の形見? もしくは、強い想い出の証し。
詮索するのは好きではないので、名刺入れのことについて聞いたことはない。
でも、ふと気づいた。
最近になって、彼が名刺入れを見る回数は、あきらかに増えている。
ここ最近で変わったことといえばひとつしかない。
季節外れの新入社員。
彼女がここ『SSg』にやってきた。



