「はい」

『紫織、引っ越ししたのね。ハガキが届いたわ』
「うん。急だったからね、ちょうど電話しようと思ってた」

『ねぇ、紫織いつまで東京にいるつもりなの? あのね、紫織にお見合いの話があって、今回は本当にいいお話で』
「お母さん、お見合いはしないって言ったでしょ」

『あ……、ごめんね紫織、わかったわ……。お見合いはいい、ごめんね』

 京都に行ってから、紫織の母は変わった。
 人はそう簡単に変わらないというが、何もかも無くして絶望の淵に立った時に、母は変わることが出来た。

 掃除機も洗濯機も料理も、家事は家政婦がやるものだと信じ、人に頭を下げることもできなかった母も、今はご近所の人たちに自分から挨拶をして、家事も自分でしている。
 手とり足取り母に教えたのは紫織だ。