「……いや、あの」
「あんたと別れてから、紫織がどれだけ辛い想いをしてがんばって来たか、あんた知ってる? 毎日毎日遅くまで勉強して、何の苦労も知らずにいた紫織が……一生懸命がんばって…… どれだけ苦労したか――
知る訳ないわよね、そうよ、知らないから紫織にヒドイ仕打ちが出来るんでしょうよ、大体ね!あの時だって――。まぁいいわ、あんたの会社に入ってから紫織は毎日のように泣いてるの! 知ってる???
とにかく今度紫織を泣かせたら、私がただじゃおかないからね!」
時折何かを言おうとして口を開けたものの、美由紀の剣幕に圧された宗一郎は声を出すこともできなかった。
人生初の平手打ちを栞里からくらったばかりなのに、早くも二度目の平手打ち。でも今夜の平手打ちは痛みを感じる余裕もない。
かんかんに怒ったままの美由紀は、そのままマンションの入り口に向かったが、
ハッとして我に返った宗一郎は後を追った。
「あ、美由紀! ちょっと待ってくれ」
声をかけると、美由紀はくるりと振り返った。
「宗一郎、あんた紫織に申し訳ないって思ってる?」
何についてかよくわからなかったが、申し訳ない気持ちでいっぱいであることに違いない。
宗一郎は「ああ、もちろん」と、大きく頷いた。



