クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~

「社長?」
「――あぁ。いや、いいんだごめん。それで、何がわからないって?」

「え? あ、はい。どうしても消えないバグがあって」
「わかった―― 見せて」

 再びチラリと宗一郎はエレベーターを見たが、固く閉じた扉が開くことはなかった。

 このままでは紫織は本当に会社を辞める。
 彼女のためにも自分のためにもそのほうがいいに違いない。

 でもやはり、このままではいけないと思うのだ。

 何かが間違っている。
 それが何かはわからないが、こんな風に傷つけあって二度目の別れを迎えてはいけないのは確かなのだ。


 その日の夜――。八時過ぎ。
 宗一郎は紫織が住むマンションに向かった。

 履歴書を手にここであることを確認した彼は、車の中からマンションを見上げた。

 彼がいるのはマンション脇の路上。
 来てどうするという明確な結論があるわけじゃない。それでも居ても立っても居られない気持ちのままここへ来た。

 駐車している車の中で、唇を噛みながらフロントガラス越しに見つめるマンションの入り口。

 紫織は定時で会社を出ているのだから、とっくに帰っているだろう。

 彼が待っているのは紫織ではなかった。
 紫織のルームメイトの美由紀である。

 そのまま瞬きをすることも忘れ、指先で時間を計るようにしてハンドルを叩く。

 待つ時間は長く感じるものである。
 時計を確認しても、ほんの数分しか経っていないことにため息をつき、首を伸ばして、マンションの部屋を見上げてみた。

 紫織がいるであろう階数はわかっても、それがどの部屋なのかはわからない。
 自分でも、馬鹿なことをしているとわかっている。

 あんなに酷い言葉を送っておいて、今更なにを言っているのだと自分でも呆れてくる。言えば言うほど嫌われて、罵られることもわかっている。たとえ殴られても構わない。

 そんなことはもう、どうでもいいのだ。
 どんな形であれ紫織を助けたい。

 せめて。
 せめてもの償いに。

 ――紫織、七年は長いな。

 それだけの時を経て目の前に現れたお前は、女の子という殻から脱皮したように、微かな憂いを帯びた美しい女性になっていた。

 心が震えたよ。

 泣きたくなった。