「奈緒、練習再開するってさ」
黒田先輩の傍まで来て、そう声をかけた男の人。
「え?もう!?
今日の練習ペースいつもより早くない?」
心配そうな声色で、チームのみんなを見渡しながら言う。
「久々の部活動で早く動きたいんだよ、きっと」
とても柔らかい声色で、黒田先輩の頭を撫でた。
―――ドクン。
その行為を見て、胸が締め付けられる。
息が、苦しくなる。
やめてよ。
触れないで。
私、目の前にいるよ――?
ねえ、なんで気付いてくれないの?
――昴先輩。
喉まで出かかっている言葉を、グッとスカートを握りしめゴクリと言葉を飲み込む。
だって。
昴先輩が黒田先輩を見つめる表情が和らいでいて、あまりにも優しい眼差しを向けていたから―。
...........わかっていた。
ちゃんと、わかっていたつもりなのに。
こうして実際に目の前すると、やっぱり辛い。
頭が、
胸が、
心が―――――――イタイ。
だから、嫌だったんだ。
サッカー部に行くのは。
こうなることがわかっていたから――。

