『椿生さんの曲ですか?』
 『そう。かなり昔のものだけどね』
 『ありがとうございます!』

 畔はその楽譜の音符を目で追った。
 自然と指が動く。何もない空をピアノを弾いているように畔は指を動かす。そうする事で畔の耳には音が生まれてくるのだ。そんな不思議な動きを、椿生は少し驚きつつも、嬉しそうに見つめていた。

 畔が一通り弾いて、手を下ろした時、椿生は畔の顔を覗き込んだ。

 『どうだった?』
 『すごく素敵でした。流れるような旋律が素敵で、何かの物語が始まるような………そんなワクワクするし、ドキドキしたり。それでいて、癒してくれるような』
 『そこまで褒めてもらえると少し恥ずかしいな』
 『曲のタイトルはありますか?』
 『全く考えたことないんだ。よかったら、考えてくれないかな』

 この素敵な曲に名前がないなんて。
 畔は少し残念に思いつつも、畔は家から持ってきた荷物からあるものを取り出した。それは分厚いノートだった。
 畔はそれをペラペラと捲って、何かを探していた。