『路上ライブはいいわ。あなたが歌いたいって思ったときの歌声は、とても良いと思うし、応援ともしたい。でも、何かあってからでは遅いの。路上ライブをしたくなったら、すぐに連絡しなさい。フォローするから』
苦笑しながら、スムーズにそう手話で伝える根本に、畔は感謝するしかなかった。
根本は厳しい部分もある。けれど、hotoRiの大ファンで、よき理解者でもあるのだ。畔の考えを寛大に受け止めて、なるべく叶えてくれようとする、hotoRiにとってなくてはならない味方なのだ。
畔はもう一度『ごめんなさい』と伝え、頭を深く下げた。
けれど、次に彼女を見た瞬間、先ほどの怒った表情も困った顔もなく、満面の笑みで畔を見ていた。
『新曲は?』
『持ってきてます』
『よろしい』
どうやら、本来の目的はhotoRiの新曲だったようで、畔が音源を渡すとウキウキした様子でミーティングルームの機材に、畔が渡したデータを繋げた。他のスタッフも呼び、その新曲をスタートさせた。この瞬間はいつもドキドキしてしまうものだが、今日はほとんどしなかった。
それぐらいに自信があるのだ。
新曲を最後まで聴いた後、畔は根本や他のスタッフ達の表情を見た後、笑顔見せた。
『社長もこの曲を聴いたら絶対にリリースをすると言うわ。それぐらいとても素晴らしい曲よ。みんな、忙しくなるわよ』
根本はゆっくりと立ち上がり、畔の肩をポンポンと叩いて、やる気に満ちた表情で微笑んだ。
これから、また楽しい音楽活動が始まるのだ、と畔は胸を踊らせながら大きく頷いた。