「わ。藤光さん大丈夫? 爽斗くんに殴られたんだって?」


知らない女子に声を掛けられるたび、


あたしは、「いえ……」とあいまいに返してしまって、


仁胡ちゃんが「詮索しないでねー」と手を振って、早足で立ち去ることを繰り返していた。


――違う。


こんなことしていたら、爽斗くんに顔向けできない。



廊下をあるけば、頬に張られたガーゼに好奇の目が向く。


思わず俯きたくなって、あたしは気づいた。


……今のあたしは、目立つんだ。


ドクドクと心臓が鳴って。


「に。仁胡ちゃん、手、貸してくれる?」


「え? うん。手? どうぞ」


仁胡ちゃんの手をぎゅっと掴むと、仁胡ちゃんの温かい手があたしを握り返した。



「……ちょっと注目を浴びることしてもいいかな」


「うん。一緒に浴びてあげる」


仁胡ちゃんの口角が、優しく持ち上がる。



「ありがとう……仁胡ちゃん……」


「がんばれ。いや、頑張ろう、一緒に!」


「……うん」



緊張で冷えきっていた手のひらが温められていく。


仁胡ちゃん、ほんとに、ありがとう。


あたしは、大きく息を吸った。