そうして、文化祭準備の日。


隣の教室はおどろおどろしい血のりをとばした看板を廊下で作っている。


真っ黒の布で覆われた窓や机を見て、異色の雰囲気にドキドキしながらその教室の前を通り過ぎた。


「……ペンキは、赤と、黄色。穴あけパンチ、ホチキスの針と、透明テープ……」


さっきクラスメイトに頼まれたものを忘れないように呟きながら、文化祭に必要なものが準備されているという用務室へと急ぐ。


その途中、頭に衝撃が走った。


――ドカッ


「痛っ」


「何してんの。サボり?」


頭に重さがのったまま聞こえる、その声は、爽斗くんだ。


こんな勢いよく頭叩かれたら知識が頭から零れ落ちちゃうから。


「赤、黄色のペンキと、穴あけパンチ、ホチキスの針、それと……」


ほら忘れちゃった……!


ハッとして両頬を覆う絶望のあたしを見て、爽斗くんはプッと噴き出した。


くつくつと肩を震わせながら。



「お前サイコー……っ」とツボに入ったように笑っている。



「……もう一度聞いてくる」


「透明テープでしょ」


そう言って爽斗くんはあたしの先を歩き始めた。


「……っ! そう、透明テープだ……。どうしてわかったの?」


「寂しい独り言が聞こえたから」


「あ……そっか」


恥ずかしい……。


「ペンキとか結構重いのに、簡単にパシられてんなよ。お前衣装係じゃなかったの?」


「それは……優心くんの採寸をしようとしたら、代わってほしいって女子生徒に頼まれちゃって。すごい人気だよね、優心くん」


「……。なんでそこで平気で代わるかな」


「え? だって、頼まれたから……」



それに、誰かの恋に、できるだけ協力したいって思うのは普通でしょ?



「莉愛はいつも言われるがまま、意思がない。消極的すぎ。今のままじゃ一生彼氏できないね」


「う……」


なんか、すごくけなされた……。



「……もっと積極的になれば?」


「積極的に……」


「まー無理だろうけど。莉愛は莉愛だから、莉愛なんだしね」



……どういう、意味だろう。

褒められてないのだけは、わかるけど。