そう思った時、ぴたりと爽斗くんの足が止まり、


ポケットに手を突っ込んだ彼はそのまま振り返り、口をひらいた。



「そういえば、莉愛のクラスの文化祭のチケット、もらってないんだけど」


「へ?」


文化祭?


あ、そっか。もうすぐ文化祭だもんね。


他のクラスの友達にチケットを配るというのがこの高校では慣例のようで、みんな自分のクラスのチケットをひとり4枚ずつもっている。


でもあたしは特に配る相手もいなくて、でも捨てるのも申し訳ないし…と、実は困っていたんだけど。



「どーせ配る相手いないんでしょ。お前、仁胡ちゃんしか友達いないもんね」


憎まれ口をたたかれて、でも事実だから「うん」とうなずく。


「だったら、ちょうだい」


その手のひらがこっちに向けられて、心臓がトクンと高鳴ってしまう。


「うん、……爽斗くんにぜんぶあげる」


泣きそうになるほど嬉しくて、鞄から取り出した4枚のチケット全部を彼の手に載せてしまった。


「……こんなに要らないんだけど」



ふっと、呆れっぽく笑い声を漏らして、それからくすくすと肩をゆらす彼を、


あたしは、見惚れるように見上げている。