ときめいたまま思わず俯いてしまった。


進みだした爽斗くんのスニーカーを見ながら、
少し後ろをついていって、


しばらくしたころ。




「ちっ、」


と不愉快そうな舌打ちが聞こえて、
ぴたっと止まった靴がこっちを向いた。


え……あたし、何かした……!?



「おい根暗。歩くの遅いんだけど」


「え、あ、ごめん」


突然の不機嫌な声。
さっきまでの夢のような心地から
引きずり戻される。


またあたし、無意識に
怒らせちゃった……



「せっかく一緒に来てあげてんのに、なんで俺のうしろばっかり歩いてんの?」



眉間に皺を寄せた爽斗くんは
あたしの手首をひっつかんで
自分のもとに引き寄せた。



「俺言ったよな? 隣歩いとけって」


「いわれました……」


「さっきからうざいくらい通りすがりの"害虫"が視界に入ってくんだよね」


「え……やだ」


「莉愛は虫きらいだもんな」


視線を向けられて、嫌な予感がした。



「ま……まさか虫もジェットコースターみたいに克服しないといけない……?」



「なわけないから。虫くらい、一人残らずぜんぶ俺が潰してやるよ」




一人?一匹の間違いじゃ……。



「だから、」


苛立った声であたしを隣に引き寄せて




「莉愛は一生、虫に怯えて暮らせばいい」


「やだなぁ、その生活……」


「俺が殺すじゃん」




あたしを見下ろす視線と目が合う。



きれいな茶色の瞳。


そんなに見つめられたら
ドキドキしすぎて、視界がぐらっと揺れる。



「……なに俺に怯えてんの」


だから、あたしは怯えてないんかいないのに。


すっごくドキドキしただけ……。


呆れっぽくこつんと頭を叩かれて


降りた手が指差す先に、目を向ける。



「次はアレ行こ」


爽斗くんは、にやりと笑っていて…。