囚われの小説家と使用人〜私の王子〜

「じゃあまた明日」

キスをしたことで満足したのか、真斗さんは私の頭を撫でて部屋から出て行く。私はその後ろ姿をボウッと見つめていた。

無理やりされたキスなのに、感触が拭えなくて苦しい。初めてが怖いと思っている人とだなんて、想像もしてなかった。また、涙が自然とあふれてくる。

「颯空ちゃん……」

気が付けば、ふわりと葵さんに抱き締められていた。いつ部屋に入ったのかもわからない。でも、その温もりが心地いい。

「葵、さん……」

私は泣きながら葵さんを見つめる。葵さんの顔は苦しげで、どうしてそんな顔なのか知りたくなる。

「キス、真斗さんとしたんだって?」

葵さんがそっと指で私の唇に触れる。私が「そう、です……」と苦しくなって言った刹那、顎を優しく持ち上げられた。そして、視界いっぱいに葵さんが映る。

「おやすみ」

顔を真っ赤にしながら葵さんは部屋を出て行く。さっき何が起こったのか理解し、私の顔も赤くなった。ほんの一瞬だけだけど、私と葵さんの唇が重なったんだ。