街から遠く離れた山の中。木々に囲まれた洋風のレトロなお屋敷。外から見れば、ここはただの綺麗なお屋敷だろう。でも私、東颯空(あずまそら)にとってここは休息ができる素敵な別荘なんかじゃない。私を捕らえて放さない牢獄だ。

八月十日。高校生最後の夏休みが終わるまでまだまだ時間がある。去年はあっという間に過ぎていった夏が、今年はやけに長い。当然だ。だって、私はこのお屋敷に監禁されているんだから……。

お屋敷の一室。アンティークの家具が置かれたその部屋で、私は椅子に座っている。目の前には最新型のパソコン。そこに私は文字を打ち込んでいく。私は高校生だけど、プロの小説家として活動しているから。主に書いているのはラブファンタジー。

小さい頃から読書が大好きだった。お母さんが小さい頃亡くなって、お父さんが一生懸命私を育ててくれた。本をたくさん買ってくれて、私も書いてみたいって言ったら応援してくれて……。本当にあの頃は……ううん、この夏を迎えるまでは、あの人と出会うまでは、小説を書くことが本当に楽しかった。