はっきりと覚えている、あのときのやりとりを、そのまま芽瑠に伝えると、芽瑠は複雑そうな表情を見せた。
「椿先生ってもっと器用な人だと思ってたんだけど……。ほら、そういうの絶対見せない人のような気がするじゃん?」
確かに。
いつもの陽平なら、もっと上手く隠すような気もしなくもない。
「動揺していたからこそ、見れた一面のような感じもするけど、雪花のメンタル的にはプラマイゼロな気がする。」
本当にそう。
私の言いたいことを言葉にしてくれる芽瑠が本当にありがたい。
「椿先生、絶対に雪花の気持ちに気づいてると思うんだよね。」
「うん。私もそう思う。」
「でも、立場的にどうしても気づいていないふりをせざるを得ない、みたいな感じだと思う。」
私と陽平を阻むもの。
それは、立場。
「上手くいくといいなあ、本当に。」
芽瑠のその言葉に、私は何も返せなかった。
ただ、波が、私たちの足もとを行ったり来たり、忙しそうにしていた。