「平安時代ってめちゃくちゃ長いね」


木曜日の18時半を回ったところ
いつもの学生と談話をしているところだ。
彼女は熱心に歴史の漫画を見ている。

この漫画はみんなに歴史に興味をもってほしいと思い買ったもの
ゼミ生たちは口を揃えて「つまらない」と文句を言い見なかった。
姪っ子も同じだ。4巻くらいまで見て辞めてしまった。

なかなかに不評なので、読んでみないかと彼女に言ってみたところ
勉強になるならと毎週1冊ずつ持ち帰り読んでいってる。
不評で悲しんでる私を思って、と考えてしまうのは自惚れているのだろうか。


「そんなに平安時代ながい?」
「うん、他の時代に比べて長いよ」

そんなにか、と思いながら後ろから覗く
あ、ほんとだ


と思ったのと束の間
ねぇせんせい、とこっちも見ないで声をかけられた。





平安時代ながっ
ゆったりとしてて上品で、そんな時代が1番長いのか


そう思った私は先生に言ってみた

「平安時代って長いね」
「そんなに長い?」

そう言いながら私の後ろから覗き込んできた
それが近い!!

先生のパーソナルスペースが狭いことも
私のパーソナルスペースが広いことも分かってる
でも、それにしても近すぎない!?

うれしいけど!うれしいけど、これは……


「……ねぇ、せんせ」
「なぁに?」

「あの、ドキドキするんですけど」

そういうのが精一杯
顔は変じゃないか、心臓の音は聞こえてないか
顔が熱いのを感じながらそんなことを思った。





「ドキドキするんですけど」

そう言われてしまった。

そんなに近いか?
というのが率直な気持ち

「普通でしょ、普通」

「…先生にとっては普通かも知んないけどさ
よく考えてみてくださいよ。
好きな人にこの距離でいられるってどうですか?」

どうって……
どうだったっけ。
長い間、恋とは無縁だったから忘れてしまった。

緊張……するのか、緊張してるのか
みくるちゃんの耳が赤いことに気づき、少し、ほんの少し可愛いと思ってしまう

いつもは好きだなんだと言ってるくせに
こういうのには慣れてないっぽい
前に私が言った言葉にも恥ずかしそうにしてたな


「……緊張してるの?」

「しますよそりゃ」

「じゃあ離れようか」
「それも嫌!」
「どうしろって言うのよ」

「……わかんない」

やっとこっちを向いた彼女の顔は真っ赤で

「あほか」
不覚にもかなり可愛いと思ってしまった。