「あ、若葉!」
夏になると柄シャツばっかの仁科は、今日もよくわからない柄だった。それが似合っててかわいい。
にこにこと嬉しそうな仁科の隣、やたらと距離が近い人がいる。他にも数人が一緒らしい。わりと気弱な仁科が断りづらそうなメンツ。
「ごめんね、遅れちゃって」
しおらしく近づいて、まずは仁科に声をかける。それから「すみません、仁科は借りていきます」と、周りの人にご挨拶。
今日は気になることに、きゅるんって感じの女子がいる。近いんだよ、距離が。
仁科、お前も距離感を気にして。腕掴まれてるせいで胸が当たりそうな勢いなの、もう少しくらい気づいて。
「えぇ~。いいじゃん。今日くらい飲みに行こーよ」
いいよね? と小首を傾げている彼女に「仁科に聞いてください」とばっさり答えるあたしの身になってほしい。
学部が違うって大事だ。同じだったらさすがに怖い。にこっとしててかわいいけど、怒ってるぞって目をしてるもん。
「幼なじみちゃん、過保護だぁ。わたし、仁科が説明してくれてたあれの続き聞きたいんだけどな〜」
わざとらしくあたしのわからない話を持ち出してきたきゅるん女子。
残るお友達も彼女の味方らしく「こいつ酔うと面倒だからニシも来てくれよ」と、謎な理由を述べている。
だから何だ。仁科は飲み会が好きじゃないんだよ。あんまり飲めないし、飲み会のノリが苦手なの。
わかってて誘ってるなら、友達としてなってないからやり直してほしい。
「大変だな。俺は若葉優先するわ。じゃ、また明日。飲みすぎんなよ」
「え、ほんとに帰っちゃうの⁉」
唖然とするきゅるん女子の腕を抜けて、あたしの横に来た仁科。
「ほら、行こー。若葉。迎えに来てくれてありがと」
麦わら帽子の上から頭を優しく叩かれた。友達のことはスルーらしい。
会釈をしてから背を向ければ「ありえなぁーい」と、低めの声。
あーあ、あたし恨まれるな。仁科のせいだ。