学生said

約束の時間に先生の研究室に行こうと4階に向かってると、先生と誰かの話し声が聞こえてきた。
「せんせー、プリントちょーだーい」
「前回休んでたもんね。はい、これ。」
「ありがとーございます! またくるね(笑)」
「来なくていいわよー(笑)」


学生と先生が話すのなんて普通だ。先生は特に人に好かれる人だからそんなのでいちいち嫉妬してても仕方ない。わかってはいるんだけど…


「失礼します」

「おー、いらっしゃい。今日暑いね」

「暑いですね」


いつもの先生。当たり前だけど。
きっと私以外の学生ともこういう約束を…とか考えてしまうけど、みんなに平等な先生を好きになってしまったのだから仕方ない。


「なにか考え事?」

「ううん、なんでもない」

「そういえば、今さっき学生がプリントもらいに来たんだけどね。」

話してくれるんだ(笑)

「また来るねとか言われたんだけど、それってまた授業休むってことよね。もー、あかんわー。」

「それは、その学生が先生に会いに来たかったから言ったんじゃないですか。休むとかじゃなくて、また会いに来てもいいですかって聞いたんだと思いますよ」

「なるほど、そういうことか〜。来なくていいとか言っちゃったよ。訂正しとかなあかんね。」

納得したような顔でうなずく先生。
心理の先生なのに、自分に向けられた好意には気づかないんだ。それなら私の好意にも気づいてないんだろうなぁ。気づかれてないから会ってくれてるのか。


「別にいいんじゃないですか、訂正なんかしなくても。嫌でも来ますよきっと。」

「なんで、みくるちゃんが怒ってるのよ。おかしくない?」不思議そうな顔で見つめられるけど我慢しなければと思う。本当は好きだと、嫉妬したんだと言いたい。でも…

「怒ってないですよ。ただ、もう少し自分に向けられた好意というものを理解したほうが良いんじゃないですかね?」

「わかってるわよ。誰だと思ってるの?心理学者よ?」

そう言いながらドヤ顔をしてこられると、意地っ張りな私の気持ちが出てしまう


「じゃあ、私が先生に向けてる好意の意味はわかる?」





先生said


いつものようにお話を始めようと、ついさっき来ていた学生の話をしていたら彼女が不機嫌になった。なにか変なこと言ったかしら、と思っていたら
「私が先生に向けてる好意の意味はわかる?」
と言われてしまった。

好意の意味
学生が先生に向ける好意なら、尊敬が多いのだろう。でも、みくるちゃんは尊敬という好意を向けてくれているのではないというのはわかる。
私に対しての接し方が他の学生と違うのだ。優しい ではなく、優しくされてる と言ったほうが正しい。
私も薄々は気づいていたが見ないふりをしていた。どうするのが正しいのかわからないというのが本音だ。

「…仲がいい先生だな〜でしょ」

「ちがう」

「じゃあ何? あ、もしかして尊敬してくれてるとか??」
そんな風に茶化すことしかできない。
想いを告げられたとしても、それに答えることなんかできない。教師と学生なんだから。

「あ、そういえば、とある先生からお土産もらったんだけどね…」
どうにかして話題を避けたい。それがこれからも長くいるためになるのだから。


「先生」

手を取られ振り向くと、真剣な目をした彼女。



「先生のこと


すき」





学生said

言うつもりなんてなかった。言えばどうなるかくらい私にだってわかる。
でも止まらなかった、止まれなかった。

先生が話題から遠ざけようとしてるのなんてバレバレで。
私、黙って流されてあげるほど大人じゃないよ…。



「好きって…先生として、でしょ?」

戸惑いの顔をした先生は、信じたくないのか、そうであってほしくないのか
そんなことを聞いてきた。
それが嫌で、わかってほしくて

「私の好きはちゅーがしたいとか、そういう好き。

…ごめん。」


謝ることしかできない。自分勝手な思いを自分勝手に伝えてしまってんだから。
でも後悔はしていない。これ以上好きになってしまう前に、これ以上自分勝手にならないようにする為にはこれが正解なんだから。

いたたまれなくなって、研究室から出るために扉に向かおうと先生の腕を離すと


「どこに行くの?」

今度は私が腕を掴まれてしまった。


「どこって別に……ごめんって。

気持ち悪いよね普通に。ごめん。もう会わないようにする…」

「なんでそうやって勝手に決めるの? 私まだ何も言ってないじゃないの。」

「だって、普通に考えて困らせるのわかってるし、気持ち悪いのもわかって」

「だから! 話を聞いて。
…まず、気持ち悪いなんて思ってない。私は同性愛とかに偏見はないから。
むしろ、ありがたいなって思う。こんなおばさんを…」

「おばさんじゃないから」

「ふふ(笑)。
ただね、付き合えない。教員と学生だから。
それはわかるよね?」

うん、わかってる。

「でも、みくるちゃんとは意味合いとしては違うかも知れないけど、教師として好きよ。だから、避けようとか会わないようにとかは言わないでほしいな」

「それは…」


それは教師と学生という関係の中で、避けられたりするとやりにくいから?
他の人から見て良くないって思われるから?


そんな考えが伝わったのだろう

「私がみくるちゃんと会いたいの。私の気持ちは会いたい。
嫌だって言うなら無理強いはしないけど…」


よくわかってるなぁ、私の言ってほしいことが。

甘えてしまっても良いのだろうか。この優しさに。
正直、会わないなんて耐えられない。
でも…


自分の中で葛藤していると視線を感じた
そちらの方に目を向けるとこちらを見つめてる先生と目が合う

「なに、その目…」

ありえないくらい不安そうな目をされるとこちらまで不安になってくる



「…私は先生が好き。それでも良いの?」

「いいよ」

「でもまた自分勝手に怒ったりするかもよ?」

「その思いゆえなんでしょ?…今までみたいに楽しく話そうよ。だめかな…?」


先生に言ったら絶対怒られるけど、いつもは猫みたいにツンツンしてるのに、こんな子犬みたいな目をされたらさ…


「…だめじゃない。」

「うん、決まり」


嬉しそうな、ほっとしたような声でそう言われると、泣きそうになる。


「先生…ありがとう。

だいすき!」

「ありがとうございます」



これからどうなるかなんてわからないけど、きっと大丈夫
そんな気がした