二人の眼前にドラグニール王国の堅牢な城壁が視界に入る。高さ10メートル以上のその物体は何物を遠ざけるような冷たさを発している。石という無機質な物質がまたそれに拍車をかけていた。事実、城壁とは本来そういうものであるもの。敵の侵入を阻むただそれだけのために造られた防壁である。

 アリシアは眼前にそびえ立つ石の壁を前に緊張を走らせる。大門と呼ばれる大きな門をくぐる事に足が無意識に躊躇しているようだ。中に入れば向けられるのは敵意であり悪意であり、負の感情だからだった。

 それは街にとどまらず今から足を踏み入れるギルド会館でもそうでもある。

「どうした?気が進まないのか?」
アリシアの優れない表情を伺いエルザが声をかける。エルザの問いかけにアリシアは強がってみせ、「大丈夫です、それよりエルザ、護衛すべき対象の姿が見えなくなっていますよ」と、エルザに行商人の馬車が見えなくなっている事を指摘した。エルザは振り返り頭を掻いた。
「……あらら、まあ大丈夫だろう。私の仲間は優秀だからな」
エルザは悪びれる事なく言い切る。その姿を見てアリシアは呆れると同時に溜息を一つ吐いた。