檸檬が欲しい

【遡ること半年前】




生物準備室の扉の隙間をこっそりと覗く。

カーテンを閉め忘れた室内は外の緋色と蒼色の交わらない世界に包まれているようで幻想的だった。


この時間なら教師は会議の時間だし、生物準備室をほぼ私室化しているあの人も今ならいないだろう。

よし!いない。
こっそりと提出しちゃおう!

「コラこら、何してるの?」

背後から馴れ馴れしい声。




げっ、、、。



「まさか、提出に遅れたにも関わらず何の謝罪もなしに出そうとか考えてた?僕は見逃す気はないよ。」

市谷拓海、生物の先生で私の学年の副担任。

生徒からの評価はかなり良く、特に女子から大人気な教師である。

『あ、市谷せんせぇ〜、さよ〜ならぁ〜。』
『バイバイー、市谷センセー』

「はい、さようなら」

『キャー! せんせぇマジでカッコいい!』
『それな。うちらの目の保養!』


この時期特有の歳上に対しての憧れにプラスして彼の外見、接しやすい性格が生徒たちに人気なのだろうか。

「オクレテスミマセン。確かに渡したので私はこれで失礼します。」




「待って、藤宮さん。今日の僕の授業寝てたでしょう?一緒に復習しようか。」



「はい?」



意味わかんない

何で私に突っ掛かって来るの?

私の事なんか相手にしない方が自分のためじゃない?


「必要ありません、お断りします。」

「まぁまぁ、そう言わずに」



みんな、私の叔父が怖くて私に関わろうとも何か注意することもない。

そう、例え私が授業の始まるときから寝ていても誰も起こさないし、誰も注意しない。



この男も私を起こさなかったてことはそういうことじゃなかったの?



「私が誰かわかってんの?」

「知ってるよ。けど、それがどうした?先生たちが注意しないことを良いことに甘えてはダメだ。」

普段の如何にも優しそうな口調と違い、少し強い言い方だった。





衝撃を受けた。



私の周りにいる大人達と違ったからだ。

叔父は忙しく、殆ど家にいないため、話す機会は滅多にない。

翠さんは叔父が信用できる人として私の家に家政婦として雇った人だ。
私の不良素行なことにも気付いてると思うけど、あの人は事情を知っているからあえて叱らない。

周りの教師たちに至っては叔父に怖気づいて今まで誰も叱る人などなかった。


けど、この人は