檸檬が欲しい


「緋緒ちゃん、良かったー。そこに居たのね。お帰りなさい」


店を出て、藤宮さんに声を掛けたのは中年の優しい雰囲気を醸し出す女性だった。


「翠さん!帰りが遅くなってごめんなさい」



「良いのよ、さっき出る時にコンシェルジュの方が男の子2人と揉めてたって言ってたからビックリしたけど、彼らは緋緒ちゃんの同級生?」


「藤宮さんのクラスの委員長をしている常和です。お嬢さんを遅い時間まで帰らせず、すみませんでした。」


地元に居た頃に実家の呉服屋の手伝いをしていて特に祖母に厳しく指導された斜め45°のお辞儀をする。

母には そんな惨めな特技は持つな と非難されたが。


「とても、礼儀正しい子ね。私は緋緒ちゃんの家の家政婦をしてる者です。では、私は帰るから夕飯分は冷蔵庫に詰めたからそれを食べてちょうだい。」


「うん、分かった」

「2人は駅までなら一緒に帰りましょう。」

「え? はい」


予想外だが誘われたなら断れない。

向きを変えてその場を去ろうとしたら誰かに引っ張られる。

え?

視線を下に向けると少し顔が赤く上目遣いの藤宮さんが僕の袖を掴んでいた。


「あの…叱ってくれてありがとう。確かに私は甘えてたわ」






「は、ヒ、はい」
我ながら情けない声。

急にデレはそれはずるいですって。