檸檬が欲しい



「ふーん。」

何ともないように親指に付いたサンドウィッチのマヨネーズを舌でペロリとする。


その仕草に瞬きをする暇もなく魅入ってしまう…いやいや、じゃなくて!!




「ちょっと!人に説明させといて何よ、その反応??」


うん、それは流石に怒っても良いと思う。






「    本当にあの教師が下心無しで近づいたと思ってるのか?」



彼の特徴的な切れ目が藤宮さんを射抜く。

彼の眼はやってもない事を白状してしまいそうな程に迫力がある。






___バァッン


「あの人のこと悪く言わないでよ、私の相談に乗ってくれた…」

__優しい人なのよ

感情的になったのをぐっと抑えてそして小さく呟いた。

下馬評を聞く限り、色々大変な思いをしてた藤宮さんにとって市谷先生という人は彼女の心の拠り所だったのかな。

「へー、その相談とやらが抱かれながら寝ることなのか。」


「えぇ?」 「ちょっ、な、は?」




抱か、抱か、抱かれ??え???



「なんで、それを……」

ガタガタガタ

クリームソーダが揺れている。


机に置かれている彼女の手が震えているからだ。



「なんでって、屋上から見えたんだよ。
見たくなくても彼処は第一校舎の様子がよく見える。その時は不注意でカーテン閉め忘れてたんだろうな。
オマエ、あの男の住処である生物準備室でソファで一緒に寝てただろ?」



それって、

ここまで来ると生徒と教師とかの関係じゃなくて…

隣に座る藤宮さんを気にすると腕を抱えて顔面真っ青である。


「鳴瀬くん、ストップ!彼女の状況を見てよ。」

もう、これ以上彼女を責めるのは危険だ。

「チッ、勘違いするなよ。俺はお前らの事をチクッてない。」




「知ってるわ。チクったのはあの人のファンだった生徒達よ。彼、沢山の生徒に好かれてたから。貴方の言う通りその日も私達の不注意だった。」


意外と淡々に話してくれた。



「私にとって彼は恩人なの。彼は今も教師の仕事を続けてる。あの人の邪魔をしたくないから私と今も接触してることは言わないで。」



何故、彼女は彼を恩人としてそこまで庇うんだ?



更にもう一つの違和感に気付く。
その教師はその事件があったにも拘らず何故教師の仕事を続けられているのか。


ダメだと分かってるのに色々と勘繰ってしまう。



「明日からは来るつもりよ。だから今日はもう良い?」

時計を見るとすでに6時だった。


もう、こんな時間になってたのか!

そうだよなー、注文してからの沈黙が30分ぐらい続いてたもんなー。

20分経過したぐらいから周りの客にこっちにも伝わるピリピリとした空気をどうにかしろと言わんばかりに目配せされたもんな。



ついさっきの出来事なのに遠い昔のことに思える。

「うん、そうだね。お開きにしようか!」




「委員長、プリント」

僕がすっかり忘れてたことを藤宮さんが自ら告げる。


そうだった。
そもそも其れが本題だった。


「これ、担任からです。出来たら今までの提出物も出して欲しいらしいよ。」

「ふーん」


やる気があるのかないのか、曖昧な反応。

けれどまさか藤宮さんが自ら言ってくれるとは思いもしなかった。



これは、もしかしたら良い方向に進んでるのでは!