地面から香る湿った匂いの中で一つ目の信号を待っている。この時間はやはり人が少ない。外灯も多くはないため怖くないわけではないが、何か起きても「その時の自分よ頑張れ」と軽い考えである。

「おい」

少し後ろから男の声が聞こえる。

「澪(レイ)」

少し大きな彼の声で私の名が呼ばれる。振り返るとエプロンを外した全身真っ黒な服で彼が走っている。彼と向き合う。

「なに」
「送る」

遅くまで店にいてしまうと毎度こうなる。彼は私の言葉なんて聞かずに、仮にも仕事終わりだというのに送ってくれる。

「ありがとう」