いつも通りの仕事終わり。プレッシャーと気遣いで疲れ切っていた。私は気持ちの切り替えのため、彼が経営する店、”デラシネ”を目指す。入り組んだ道の先にあるためか、あまり客入りは良くない。そういうと怒られるのだが。

「いらっしゃい。疲れ切った顔」

苦笑いの彼。エプロンを着用して厨房に立つ姿ですらおしゃれな雰囲気があふれ出ている。こんな雰囲気を常時放っているのならば、誰かしら惹かれるだろうなと扉を開けるたびに思う。

「そっちこそ、相変わらず色気振りまきやがってちくしょう」

いつもの憎まれ口を叩きながら、お決まりの席であるカウンターへ腰を下ろす。
料理の注文はせずとも、日替わりの料理を提供してくれる。店の雰囲気はともかく、料理はおいしい。友人に勧めたいところではあるが、”デラシネ”は私の居場所のひとつになってしまっているため実行は困難だろう。