ペトリコール


朔がこの匂いを教えてくれた日。

「雨上がりの地面から香るこの匂い好きだなあ」

そう小さく呟いたつもりだった。朔は私の周りの友人誰一人として拾えなかった小さな呟きを通りすがりに拾い上げてくれた。

「この匂いはペトリコールと言うんだ」

私は新しい世界を知れた気分になった。朔のおかげで私はたくさんの世界を持てた。いろんな世界を持つことで嫌なことがあっても逃げ道がある、私の居場所がある、受け止めてくれる場所がある、そう思うだけで嫌なことが多い世界も乗り越えられている気がする。





朔の温かい胸に抱かれ、両手に包まれて。
たくさんの世界が私を支えてくれている。
ペトリコールが私たちを包んでくれている。