サクノがセツナにそのおまじないを教えて貰ったのは、学校で開かれる夏期補講の2日目、2限と3限の間に設けられた、15分間の休憩の時だった。


「必ず恋が叶うんだって」


サクノのひとつ前の席に座っていたセツナは、サクノの机に肘を置くようにして、口角を緩く持ち上げた。


「……ちょっと怪しいんじゃない?」


「サクノは真面目だなぁ。そんなんだからアラキに振り向いて貰えないんだよ」


セツナに切って捨てられて、サクノは自分の爪に視線を落とす。


サクノは同級生のアラキに小学生の頃から恋をしていた。


中学生になり、“付き合う”という行為を知ってからは、アラキと恋人になりたいと思わないでもなかったが、内気な性格が影響して想いを打ち明けることが出来ずにいた。


「別におまじないなんて叶ったらラッキーみたいなもんだよ。叶わなかったとしてもやっぱりそうだよね、としかならないって」


「うーん、確かに」


「アラキと仲良くなりたいんでしょ?」


「それは……まぁ」


「教えてあげよっか?」


セツナの言葉に、サクノはしばし考え込んで、それからこくり、と首を縦に振った。


セツナはその様子を見て、さらに大きな弧を口元に描く。