何か言葉を紡ごうとするが、思うように言葉が出てこない。



 聞きたいことはたくさんあるのに、何一つ言葉にならない。



 少女は何も言わない。黒耀の双眸が何処か哀し気に見えた――気のせいかもしれないが。



「わたしはリシュティア。あなたの名前は?」



 名前…………。



 思い出そうとすれば頭の中は、空白。



 少年は、心の奥底では理解していた。ずっと抱いていた喪失感の意味を。



 これは贖罪(しょくざい)。



 少年がすべてを忘れたことへの。




 その対価ーー失った記憶。