僕ハ無窓ノ居室デ無限ノ虚構ヲ夢想スル



彼女の遺品の中に、僕にあてられたものがあった。

几帳面そうな彼女の字で『吾桑へ』と書かれた茶封筒には、夏に貸したままの文庫本と、あの日呑んだ麦酒の王冠が入っていた。



少しひしゃげた王冠からは、あの日呑んだ麦酒の香がした。




僕は、あの日のことを『幸せ』だと言った七生を思い出して、その王冠を握り締めて、少しだけ泣いた。