神妙な顔つきでリサちゃんが健さんが座るソファの前のテーブルに置いたのは、
小さなカメラ。
「これは?」
俺と渉もソファに座って、
そのカメラを覗き込む。
「今日食事の準備の手伝いや、ちょっと他の仕事の打ち合わせしてて、莉緒にカメラを渡しておいたんです。そしたら…とりあえず再生しますね?」
リサちゃんがカメラの録画を再生する。
練習の風景が固定の場所から撮られていて、
しばらくするとあおがカメラの近くに来て、
急いだ様子でカメラを手に取ってポケットに入れたのか画面が真っ暗になる。
「なにも写ってないっすね…」
「ここからです。」
リサちゃんがあまりにも辛そうで、
3人とも静かにその暗い画面を見つめる。
布が擦れる音と、
あおのこの後の計画をきめる独り言。
「蒼井さん、ちょっといい?」
男の声。
そこから移動したのか足音が続いて、
止まって静かになる。
カメラ越しにわかる重い空気。
そこから流れる酷くあおの心を踏みにじる言葉の数々。
やっぱりあおのあの言葉は嘘。
どうかしました?、じゃないよ。
それから俺とあおの会話が入るはずだけど、
リサちゃんが気を利かせてくれたのか、
カメラを止める。
しばらくの沈黙を破ったのは健さんで。
ガンッと机を蹴る音が響いて、
目の前のカメラが大きく揺れる。
「…リサちゃん、ありがとう。今あおのとこ戻らないでやってもいいかな。たぶん、1人じゃないと泣かないから。」
健さんの色のない淡々とした声に、
少し怯えつつリサちゃんは頷く。