「ぴぃちゃんはお腹が空いたようですね。餌を持って来ましょう」

 春川さんは嬉しそうに言って、部屋を出て行った。

 そして持ってきた餌をテーブルの上に出すと、ぴぃちゃんはさっそくついばみ始める。よほどお腹が空いていたみたい。

「ずっと、食べなかったんですよ」

「え? そうなんですか」

「普段は朝と晩には出てきて、必ず餌を食べるんですが。ぴぃちゃんは、昨日からずっと出てこなかったんです。リクトール様が呼び掛けてもダメだったんです。きっと、朱里さんがいなくなって、拗ねていたんでしょうね」

 リクトール? 

 心の中で名を呟くと、頭の隅がキラキラ光って、ふわっと広がる大きな翼が、光の余韻を残して消えていった……。

「はっ! これって!」

 ガタンと椅子から立ち上がった。静まった部屋の中で、ぴぃちゃんが餌をついばむ音がカツカツと響く。

「あの翼は、ぴぃちゃんのじゃなくて、まさか……」

「朱里さん、思い出しましたか?」

「あの、私はここで何をしていたんですか? 教えてください! お願いします!」

 春川さんに思い切り頭を下げた。

「やはり、そこまでは覚えていないんですね。良いでしょう、お教えします。勿論、リクトール様には内緒です。私は、朱里さんの味方ですからね。何を聞いても驚かないでください。そして、信じてください」

 椅子に座るように促されて、背筋を伸ばして春川さんと向き合う。覚悟なんて、家を出た時からついている。

「はい。何を聞いても受け止めます。全部、話してください。お願いします」

「私が、存じてることのみですが、朱里さんは――」