「今日!すごい有名人がここの予約してるんだよー!」


声のボリューム……っ!

「もぉ〜、声張り上げるならこそこそする必要ないじゃん〜」

「ごめんごめんっ、つい興奮しちゃって」


ショートボブの髪を揺らしながら可愛く謝る藤枝さんは、音楽スタジオのスタッフをやってるから有名人も多く見ているだろうに、ミーハー心が抜けないのかいつも有名人が来るときは朝からハイテンションだ。


そんな藤枝さんも今日は一段と楽しみにしているらしく、さっきから鼻歌が止まらない。

今日、そんなにすごい人が来るの?


このスタジオはカラオケボックスのようにフロントを通って各部屋に入って練習するから、一度中に入ると他の利用者と顔を合わせることはない。

だけど外に出たときに偶然すれ違うことがあれば、その有名人に会う可能性もあった。


ここは一般の人も使えるけど一般の人が使える曜日が限られていて、今日は事務所に所属している人しか借りられない。

私は顔も名前も伏せているから、藤枝さんも私のことを"どこかの事務所には所属しているけどよくわからない無名の子"くらいの認識だ。