私の顔や名前は出ていないけど、相手はどんな人なのかとたくさんの憶測が飛び交っていて、『スタイル抜群の美人かも』や『料理の腕ががプロ並みで胃袋を掴んだのでは』や『外国の美人モデルとかでは』なんてとんでもない言われたようだ。

「わぁ、なんかとんでもないハードルの上がり様でむしろ私で申し訳なくなってくる」


ソファに座ってコートも脱がずにテレビに釘付けの私の横に瑠衣が座ると、「仁那、コート脱いでー」と私のコートに手をかける。

それをされるがままにまだテレビを見ていると、瑠衣が艶のある声で私を呼んだ。



「仁那ぁ？」



あ、この声は。

私の意識を自分に向けたいときに出す甘い声の呼び方。


「えっと、ごめんね……。瑠衣に内緒にしてたことがあって」

テレビを消してソファで瑠衣に向かい合うように身体を動かすと、瑠衣がスッと目を細めて美しい顔で楽しそうに笑ってみせた。


「gris(グリ)？」


そう言って私の真っ黒で重めのウィッグに手をかけてそっと外してしまった。