「あ……、万里(ばんり)さん」


深い青い髪が柔らかくて揺れる。

目つきが悪く一見すると怒っているようにも見えるちょっと怖い顔が、驚き目を軽く見開いていて今はぜんぜん怖くない。


「おい、どうした？」

「……えっ？なにがですか……」

「泣きそうな顔してる」


さっき一度頬を伝った涙は今はもう出ていないけど、私……そんなに表情に出てるんだ。


「あ……、何でもないっ、ちょっと睫毛が目に入って」


言い終わる前にさっきから万里さんに掴まれている腕がさらに引っ張られて、今度は万里さんの懐に入り込むほどに距離が近くなってしまった。


「あのっ、え？ば……万里さん！？どうしたの？」

私の頭の上に万里さんの掌の感触があるけど、この近すぎる二人の距離に訳が分からない状態で、振り解くことも忘れて声だけで伺う。