⿻先生side

コンコン

「はーい、どーぞー」
時計を見ると時刻は18時30分をさしていた。約束した時間だ。
彼女がこちらの様子を入口から伺ってる。
「いらっしゃい」
「失礼します」
そう言いながらいそいそと入ってくる彼女は、もともと私がカウンセリングを受け持っていた子。名前は斎藤未来《サイトウミクル》。
今の接点といえば、私が担当の授業を受けていることだ。

彼女はいつも通りに私の隣に座る。
「いつも隣に座るね」と聞くと「うん、だって近い方がいいじゃん!」と言ってきた。
彼女が一週間に1度この研究室に来るのも当たり前の光景になった。

以前、カウンセリングをやめると言った時は凄く焦った。
引き止めたが意志は強く、「いつでも研究室に来なさいね」と言うしかなかった。
当たり前のように研究室には来ず、私は会いに行き話を聞くと「約束はないから」と言われてしまった。
それなら と約束を作り、5限終わりに会い始めて3ヶ月が経った。
今ではカウンセリングの時には見せなかった笑顔を見せてくれるようになり、私も楽しい時間を共に過ごしている。



彼女と以前話している時に「先生の声が好き」と言われたことがある。
私は昔から声がコンプレックスで、そんなことを言われたことは無かったから、とても嬉しかった。


「前に、私の声好きって言ってくれたじゃない?今でも覚えてるよ」
「うん。好きだよ、声も」
そう言い微笑む彼女。


声"も”というのは……?


「声も好きだし、笑った顔も好き!」
10代特有の純粋な笑顔に、不覚にもドキッとしてしまう。

「何言ってんのー」と茶化しても
「んふ」と笑い否定をしない彼女。

どういう意味があるんだろう。





「気をつけて帰るのよ」
「はーい。ありがとうごさいました!」
いつも通りに帰っていく彼女。

私もそろそろ帰るか。


ふと、さっきの会話を思い出す。
「声も好きだよ」
その一言。その言葉にどんな意味が込められてるのだろう。

「まさか、ね」
そんなことを思いながら、私は帰り支度を始めたのだった。






⿻学生side

私はいま、気になってる先生との約束の時間まで3階の勉強スペースで待っている。

影山純子《カゲヤマジュンコ》先生。みんなに人気者で、笑い方が可愛い人だ。そんで声も好き。
先生は自分の声が嫌いだって言ってたけど、すごくいい声。

時々思うんだ。
私は先生に恋をしてるのかもしれない。
でもこの気持ちを認めていいのかな。
実らない恋を経験したことは沢山ある。恋は時に甘く、そして苦い。簡単に認めても辛くなるだけだ。
そんなことを考えながら時間を潰した。





約束の時間になり4階へと向かう。
私はこの廊下を渡る時が1番と言っていいほど緊張する。
もし先生の部屋に誰かいたら?先生が約束を忘れていたら?
色々な不安が襲うが、研究室に着き少し中を覗くと
電気は付いていて来客は居なさそうだ。

少し深呼吸をしてからドアをノックし
「はーい。どーぞー」
声を聞いてから中に入る。

「いらっしゃい」
「失礼します」


いつものように談笑していると、
「前にさ、私の声好きって言ってくれたじゃない?あれ、今でも覚えてるよ」
と言ってきた。

覚えててくれたんだ、私が言った言葉。
前に「自分にはコンプレックスがあって、そのひとつが声だ」と言っていた。その時に言った言葉だ。
お世辞 といえば最初はそうだったのかもしれない。
でも今はすごく好きな声。
少し低めな、でも女性らしい魅力のある声。

でも、好きなのは声だけじゃない。
笑った顔も、みんなに優しくて平等なところも……
きっとまだまだ私が見つけられてない魅力があるのだろう。
それをわかってほしい、と思ったら言葉が出た。

「うん。好きだよ、声も。声も好きだし笑った顔も好き」

そう言うと、先生は耳を赤くして目線を逸らした。

なにその反応…
もしかして……照れてる?
そんな可愛い照れ方ある?
そんな顔するの?もっとみたい

そう思っていたら話題をそらされた。


どうしたらもっと先生の照れた顔を見れるのだろう
そんな事を思いながら私は好きな人との会話を楽しんだ。