「雄太が私を好きだったのは小学生の頃の話だよ。あっちだって私の事なんか覚えちゃいないだろうしさ。
中学校の時なんて1回も話してないし、他の子と付き合ってたと思うし」
「でも何かやだ…」
不覚にも私はこいつのヤキモチ妬きな所が嫌いじゃない。
そうやって拗ねる素振りさえ可愛いと思ってしまうし、愛しくなってしまう。
お酒が入っているからなのか、何故かいつもより甘えん坊になっていて、上目遣いでこちらを見つめて、お腹にぎゅっと抱き着いてくる。…やっぱり子供。
「静綺超可愛いんだもん。絶対また好きになる可能性あるだろう」
私はモテない。きっと真央が思っている以上に。それなのにこうやって心配してくれて、私を可愛いと言ってくれる。
それがどれ程私にとって嬉しい事が理解しているのだろうか?
「真央だって」
「え?」
「花乃さんまた真央のマネージャーやるんでしょう?
冗談だとは思うけど、岬さんが昔真央と花乃さんが付き合ってたって言ってた」
「付き合って…!」
真央の掠れたハスキーな声が、うわずるのを感じた。そして真っ直ぐにこちらを見つめていた視線が、僅かにずれた。
嘘でしょう?
「付き合ってなんか…ない…」
私は真央が嘘をつく時が分かる。
嘘のない人で真っ直ぐに人に気持ちをぶつけてくれる人だから、余計に分かってしまう。
声がうわずったのも、視線を僅かに移動させたのもその証拠だ。そしてそんな真央を見ても未だにその事実が信じられずにいた。
「嘘なんだよね?冗談でしょう?」
「付き合っては、いない。」
その歯切れの悪い言葉はなんだ。嘘のない人が嘘をつく時はどうしてこんなにも分かりやすい物なのだろう。
「付き合ってはいないけれど……」
「付き合ってはいないけど何だって言うのよ!」



