その後も母は真央を王様のようにあがめて、サインまで貰う始末だった。まさか娘の連れて来た彼氏が姫岡真央だなんて夢にも思わなかった事だろう。
真央と喋っている間、母の目はずっとハートマークになっていた。こりゃあテレビで観ている視聴者も騙されてしまうって訳だ。
お母さんはすっかり調子に乗ったようで、買って来たケーキやお菓子を出してひとりでベラベラと喋り出した。その母に対して真央は嫌な顔ひとつせずに対応していた。…なんつーか演技派っていうか、猫かぶりというか…。
素の真央は不器用な癖に、演技のスイッチが入ると人が変わったようになってしまうんだから。まぁ…これも才能という訳か。
「本当に綺麗な顔!」
「静綺には勿体ないわ」
「本当に静綺でいいの?芸能界には可愛い子沢山いるでしょう?」
「静綺ときたら私と違って全くモテなくて、男っ気がなくて心配していたの」
「それにしても睫毛が長いのねー。テレビで見るよりずっと顔も小さいし」
ほんっとに余計なお世話だ!
ひとりでベラベラ喋るお母さんに対して、真央は嘘八百を並べていく。
「僕なんてそんな…」
「静綺さん程の綺麗な女性も早々いませんよ。お母さん似なんですね」
「僕はそんな静綺さんも好きですが」
なんて。
ほんっとうにこいつって…改めて俳優なのだと感じる。
すっかりは母その気になって、真央のお世辞を真に受けて頬を赤らめる。このままだったら調子に乗ってどこまでも付け上がってしまいそうだったので、小一時間で切り上げる事にした。



