で、問題は私の母親な訳だが…。
真央を連れて行った瞬間母は玄関で動きをぴたりと止めて、石のように固まってしまった。
それに対し、さすがは演技派俳優、姫岡真央。それは寮に居る時や先程自分の実家に居た時とはまるで違う。
余所行きの顔。この顔は何度か見た事があった。完璧な笑顔を取り繕って、営業スマイルを母へと浮かべる。
「初めまして、静綺さんとお付き合いさせて頂いています姫岡真央と申します。」
「ひッ!」
母は真っ赤になってその場にぺたりと座り込み、両手で心臓をおさえている。
「ちょっと、お母さん………」
「大丈夫ですか?」
そう言った真央は笑顔のまま母へと手を差し伸べる。その手を取って母は更に顔を真っ赤にさせる。
「静綺、ほ、本物?」
何とも間抜けな質問だ。偽物も本物もあったものか。
「何がよ!」
「姫岡真央さんですよね?!私、ドラマ全部見ています!大ファンです!
子役時代からのファンなんですよ!」
嘘つけ!
「それはそれは嬉しいです。それにしてもびっくりしたなぁ、静綺さんのお母様がこんなに綺麗な人だったとは驚きです。」
真央もよく言う物だ。
「そ、そんな事はありませんわ!ささ、汚い所ではありますがお上がりになってください!」
「ありがとうございます。お邪魔します」
くるりとこちらを振り返って、ベッと舌を出した。
このペテン師め。その演技力に何も知らない人は直ぐにコロッと騙されちゃうんだから。



