【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜


「会長はこの寮にも愛着がある人で…特別に昔から真央に目をかけてくれていたような人でね。
今回の1年休業の話も会長が持ち掛けたの、社長だったら絶対に許さなくって今頃真央の心は壊れちゃっていたかもしれないわね。」

「会長は誰にでも優しいけど、真央ちゃんは特別って感じだもんねぇー」

「子役時代に忙しくて中々家に帰れなかった真央はこの寮にいたんだけど、会長は父親代わりみたいなもんだったからね。
私情を挟むなって社長は言うけれど、会長にとって真央は自社のタレントって言うよりも我が子のように可愛いのかもしれないわね…」

そんな理解のある人が真央の近くに居てくれて安心したけれど、あの社長はどうやら一筋縄ではいかなそうだ。

「けれど社長からあまり良く思われていないのもまた事実…。
だからこそ静綺ちゃんとの事は慎重になって欲しかったのだけども」

そう語る山之内さんの言葉もまた母心。

普通であるのなら親子で普通の家庭で育つ筈だった真央は、幼少の頃から仕事をしていた為、会長が父親代わりで、山之内さんが母親代わりだったのだろう。

そんな思い出の沢山詰まった寮。どれだけ売れっ子になってもこの寮に愛着があり、ここで暮らす真央の気持ちがほんの少し理解る気がする。


一通りの準備を終わらせ、エプロンで濡れた手を拭う。
ふぅと大きなため息ばかりの山之内さんには申し訳ない気持ちでいっぱい。
けれど山之内さんはそんな私の様子を察してか、ソファー越しで笑顔を向ける。

「だけど、今真央が仕事を頑張れるのは間違いなく静綺ちゃんのお陰だわ」

「私なんて…何もしていませんけど…」