【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜


「し、静綺ちゃん………」

言ってしまったが後の祭り。隣に座る山之内さんはあたふたし始めて、勝手に暴走を始めた私を止めるように肩を揺らす。

目の前の高圧的な男はそれでも余裕で、スーツの襟を直すのと同時に立ち上がる。口元だけに僅かに笑みを残したまま。

「これはこれは予想よりずっと気の強そうなお嬢さんだ」

「し、社長…!
けれどさっきも言った通り真央が近頃仕事を頑張っているのは彼女の存在がやはり大きいのです。
彼の管理が出来なかったのは私の力不足であるのは否めませんが…」

山之内さんの言葉を無視して、立ち上がった長岡さんはちらりとこちらへ目配せをする。

「今日は棚橋さんにそれだけを伝えにきただけだから。
君が真央を十分に想っている気持ちは伝わったよ。けれどね、芸能人という特殊な仕事をしている彼と付き合っていくのは容易ではないよ。
この先君が後悔する事も沢山あるだろう。それに……真央自身もきっと君と付き合っている事を後悔する日は来るだろうさ」

それだけを言い残し、長岡さんは寮を後にした。

さっきまで震えが止まっていたかと思っていた足が再び震えだして、その場にぺたりと座り込んでしまった。

こ、怖…。山之内さんは座り込む私に駆け寄ってきて、心配そうな顔を見せた。その顔はいつもよりずっと疲れているようにも見えた。


暫くして瑠璃さんが帰って来て、私は夕飯の支度に取り掛かりつつ瑠璃さんと一緒に山之内さんの話を聞いた。

「今日社長が来た事は真央には言わないでおいてね。あの子カッとなると何をしでかすか分からないから」