かなり困惑している。いつもはどちらかと言えば呑気で、全く問題の起こらないこの寮の名ばかりの警備員な訳なんだけど。

「どうしたって言うんですか?」

「山之内さんが珍しく早く帰って来たと思ったら…
連れて来たんだよ…」

「連れて来た?」

「な、長岡(ナガオカ)さんを!!」

な、長岡さん?!
いや、誰だよ?!

けれどいつもは適当なおっちゃんであるたっさんが恐怖に慄いている。これはただ事ではなさそうではある。

「静綺会った事なかったか?
長岡さんと言えば芸能界の帝王と呼ばれる…グリュッグエンターテイメントの社長さんだ!
滅多な事じゃあこの寮になんか来る人じゃねぇのに……」

たっさんの言葉に両手に持っていたスーパーの袋がばさりと音を立てて両手から落ちた。
王様やら王子様やら帝王やら…この寮はいつだって何かと忙しい。

グリュッグエンターテイメントの社長で、芸能界の帝王と呼ばれる人。勿論人生でそういった人物と関わり合いなんて今までなかった訳だ。当たり前だが。

そして彼が何故滅多な事じゃあ来ないと言われるこのおんぼろ寮に来たかって?

それの心当たりは大いに大いにありすぎる。…まさか私暗殺とかされちゃったりしないだろうか。帝王なんて聞いちゃうと闇の世界しか思い浮かばないよ。

まさかせっかく彼氏が出来て、幸せな日々を送ろうとしていた矢先…人生最後の日になってしまうと言うのだろうか?!